忘れられた日本人

忘れられた日本人
忘れられた日本人
宮本 常一
民俗学者宮本常一が昭和初期~戦後にかけて地方の村々の老人たちについて、彼らがどう生きてきたかを聞き取り、一冊の本にまとめた民俗学を代表する著作。
対馬にて
村の寄りあい
名倉談義
子供をさがす
女の世間
土佐源氏
土佐寺川夜話
梶田富五郎翁
私の祖父
世間師
文字をもつ伝承者
当時の西日本の辺境の村々の様子が生き生きと描かれていて、とても興味深く読みました。


「対馬にて」「村の寄り合い」は当時の村々の物事の決め方や集団での自治の様子が描かれているのですが、かなり興味深く現代に通じるところがあるなぁと思いました。
かつて村と呼ばれた集団は今は会社と呼ばれているのかもしれない、と思ったりもするんですが、人が集まれば自治が行われ集団の取り決めが生まれるので、これらの物語は集団で生きる今にも通じるところがあるなぁというか、示唆に富む内容になっているなぁと思います。
この中に描かれた西日本の辺境地帯の村を現代の組織風にまとめるとこんな感じでしょうか。
・意思決定の為にコンセンサスを得る場があり、徹底的に話し合う
→寄り合い
全員集合~区長からの方針、提案~地域組での議論~区長へ報告~折り合いがつかなければ再度持ち帰る
というサイクルで、納得するまで徹底的に何日でも話し合う。
今はスピードが重視されるとはいえ、コンセンサスを得るために徹底的に話し合うスタイルは見習うところ大きいかなと思います。
・過去の決定や意見が共有され知ることが出来る
→村の申し合わせの記録(帳箱に保管)
ナレッジマネジメントですね。
・「世話やきばっば」がいる

村の中にある何も彼もを実によく知っていて、たえず村の中の不幸なものに手を差しのべているのである。それも決して人の気づかぬところでそれをやっている(中略)何も彼も知りぬいていて何にも知らぬ顔をしていることが、村の中にあるもろもろのひずみをため直すのに重要な意味を持っていた。

こういう人は確かに一人いるととても重宝します。
・祭り的なイベントがある
→祭や家々の招宴などでエネルギーを爆発させる
一日中顔をつき合わせていると、誰がなまけているなどが一目瞭然で、世間に調子をあわせているとのびのびとした人間性を押しつぶされてしまうことが多い。
・個々の個人的な欲求を満たそうとする世界がある
→男女の自由な関係など。
現代なら個々の勉強を支援したり、プライベートな時間が取れるように自由な勤務体制にする、早く退勤出来るようにするなどかな。
・組織の外に出られるよう人の流動性が確保されている
→人間関係の深刻なもつれの解決のため、村の外に逃がしてやるなど。
・地位や環境、立場に応じた集まりがある
→女だけの寄り合い、隠居した年寄りの集まり、結婚間の男女など
・全体の作業をする人と個々の作業をする人とで役割分担がされている
→共同作業をする人=戸主、家の事をする人=隠居
・重要な立場は原則推薦で決まる
→百姓代など
・会議を正しい方向に導く村の古老的役割の人がいる
→「たった一人暗夜に胸に手をおいて~」「足もとを見て物をいいなされ」など、
議論が紛糾したときの古老の一言のエピソードが印象的。
どれも、今の企業などの集団内でも参考になりそうな、知恵の宝庫のように感じられます。
他にも興味深い内容ばかりですが、印象的だったのはやはり「土佐源氏」。
八十歳を過ぎた盲目の老乞食の男性が若かりし頃を思い出して語る恋物語に心打たれます。
事実は小説よりも奇なり。と言われますが、この土佐源氏もその完成度の高さから創作説が囁かれ、宮本常一はそれに対してノートを見せて憤ったといわれているそうです。
映画などでbased on a true story…などと出ると、感情移入度が上がったりするんですが、実話だと聞かされるとイメージしやすいからでしょうか、この作品群も創作の世界のようなピュアさが、逆に説得力を持って感じられることが出来ました。
身分違いの恋の果てに悲しい別れをし、様々な女性に尽くした果てに盲目となって30年。
ずーーっと待っていてくれた伴侶に尽くしてもらい、乞食として生活をしながらも、幸せをかみ締める姿に、自分の今までの行いや、人々への接し方を振り返らされます。果たして人に優しくしてこれたか、もし自分が年をとって昔を思い出して幸せに浸れるか。ということを考えると自分は無頓着で誠実ではなかったかもしれないと反省させられます。
「世間師」「文字をもつ伝承者」などもそうなのですが、彼らの生き様は、その日その日を誠実に生きて、過去を振り返っても良かったと言える様な人生を送った人たちばかりで、そういう「誠実に一生懸命に生きた日本人」=「忘れられた日本人」の足跡が描かれたのがこの作品だと思いました。彼ら「忘れられた日本人」の姿を読んだ時に感じた反省や思いを忘れないようにして生きたいと思います。

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