「アイス・バケツ・チャレンジ」と特定疾患

難病のひとつ筋委縮性硬化症(ALS)の研究に対する寄付を促すキャンペーンとして氷水を頭からかぶってyoutubeに動画をアップするか公理水をかぶらないかを選んで、寄付を行う「アイス・バケツ・チャレンジ”Ice Bucket Challenge”」が世界的に広がっているそうなので、参考のために厚生労働省の資料から国内の特定疾患の56種類一覧と疾患別受給者数推移のグラフを紹介しておきます。

疾病対策部会指定難病検討委員会審議会資料 |厚生労働省」の「参考資料3 参考資料集(PDF:1,092KB)」より。

特定疾患治療研究事業の対象疾患受給者証所持者数 一覧

特定疾患治療研究事業疾患別受給者件数の推移

このように、近年国内では「潰瘍性大腸炎」と「パーキンソン病関連疾患」とが爆発的な勢いで増加しており、特にパーキンソン病は薬物治療が中心ながら根本的な治療法が確立しておらず、さらなる研究が急務となっています。各疾患の詳細については「難病情報センター | 特定疾患治療研究事業対象疾患一覧表(56疾患)」を参照ください。いずれも難病なだけに治療法の確立やさらなる研究が必要なものです。

「筋萎縮性側索硬化症」もまた同様に根本的な治療法が確立していない難病で研究資金への寄付は非常に重要です。しかし、こういった状況を踏まえ、「筋萎縮性側索硬化症」に留まらず特定疾患全体に視野を広げて、貴重なお金をどこに寄付するべきなのかあらためて検討されると良いのではないかと思います。草の根的な動きとして始まった同キャンペーンは広がりとともに特にセレブリティのメンバーシップを表す通過儀礼のようなイベントとなっているようなので、そこで表明する見識は寄付者の立場を大いに高めることになるでしょう。

ところで余談ですが、氷水をかぶるという話から滝行や水垢離、禊といった古くからの日本の神道・仏教儀礼を思い出しました。古くから日本に限らず世界中で、水、特に流水には穢れを浄化する力があると信じられてそれが日本では禊という宗教儀礼を生んだ(参考:山本幸司著「穢と大祓」P70)わけですが、その延長上に海水が健康増進・病気療養によいとする言い伝えが生まれ水垢離などの習慣となって、やがて欧州で十八世紀末から登場した海岸での保養思想の輸入と相まって海水浴の習慣が根付いていきます(詳しくは以前書いた記事「近代日本、海水浴の誕生」)。このあたりの水と健康との観念のリンクと、氷水を被ることと難病への寄付とのリンクとの間になんらか今回の「Ice Bucket Challenge」の世界的な広がりの心理的な要因がありそうですね。

また、マルセル・モース、モーリス・ゴドリエによると贈与には四つの義務、すなわち「1) 贈り物を与える義務(提供の義務)、2) それを受ける義務(受容の義務)、3) お返しの義務(返礼の義務)、4) 神々や神々を代表する人間へ贈与する義務(神にたいする贈与の義務)」が生じるそうです。寄付というのが「神々や神々を代表する人間へ贈与する義務(神にたいする贈与の義務)」としての側面を持つという点でも、氷水を被るという一種の儀礼を介して自発的な義務の履行を促しているところに、もう一つ心理的な要因が隠れていそうだなとも思いました。

まぁ、このあたりはあくまで余談です。

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