王権の条件としての血統と即位儀礼についてとりとめなく

ちょっとメモ。

『人が王となるのは、その起源は共同体首長に発するが、王家となって以後は、王たる者の血筋を引くことと即位儀礼の存在が条件となる。もちろん、政治的・軍事的実力やカリスマ性などによって新しい王朝を開く場合は、その限りではない。
比較的平和裡に王朝交代を実現する場合は、王の血統はいわば必要条件であり、たとえばフランスでは、カペー朝、ヴァロア朝、ブルボン朝は替わるが王はすべてカペー家の血筋の者によってたてられ、カロリング朝の王位を簒奪したカペー朝のパリ伯ユーグ・カペーにしても、権威あるカロリング朝のシャルル・マーニュの末裔を自称した。日本の場合でも、天皇家において血統が絶対条件であったことは周知のことで、鎌倉・室町幕府=王朝においても将軍=王になるのは源氏=天皇家の末裔であった。秀吉の場合は、その欠点を補うために、日輪神話や落胤説などが唱えられたし、家康の場合は吉良家から系図を取得して源氏の末裔を称した。
即位儀礼は、王になるための十分条件である。即位儀礼は、ヨーロッパの王権の場合、キリスト教による聖別式、すなわち塗油の儀式が重要であり、日本の天皇家の場合はある時期から仏教による即位灌頂がその役割を担った。そして本章でテーマとした統一政権の場合は、朝廷=旧王朝から関白、将軍といった特定の官職を授与されることであった。その官職宣下こそが即位儀礼の役割を担ったのである。』(日本史講座〈5〉近世の形成「統一政権の登場と江戸幕府の成立」山本博文P98より)

日本の各武家政権をそれぞれ一つの王朝として捉えて血統と即位儀礼とで比較分類するのは興味深い視点だった。官職宣下を即位儀礼とすると、必ずしもそれが征夷大将軍にはこだわる必要が無い。即位儀礼的役割を担いうるのはどのあたりからか。三職(将軍、太政大臣、関白)かそれとも近衛大将か。このあたり考えると鎌倉幕府の執権は確かに権力基盤が複雑な王権になるよな。天皇家の血を引く者たちは即位灌頂を通じて大日如来と一体化し天皇になった。即位灌頂の準備段階にあたる沐浴については高取「神道の成立」で詳しく書かれていた。

高取正男著「神道の成立 (平凡社ライブラリー)」P83-84
大嘗祭は四ヵ月前の八月から準備に入り、その当月、十一月朔日から散斎(荒忌)に入る。諸司は執務はするが、弔喪、問病、食宍を避け、刑殺を判ぜず、罪人を決罰せず、歌舞音曲をつつしみ、穢悪の事を避けると「神祗令」に定められている。三日前の丑の日から致斎(真忌)に入り、一切の日常業務を停止して祭祀のことだけに専念する。こうして待ちのぞまれた祭儀の本番は、天皇が廻立殿で沐浴し、身を浄めるときからはじまる。天皇は聖なる浄衣(湯帷子)を身につけることで、日常性と最終的に決別する。そのときから天皇自身はもちろん、天皇が主役をつとめる大嘗宮全体が聖なる時間帯に入る。このことが基礎にあってこの浄衣を「天の羽衣」とよびならわしたのだろう。
『延喜式』によると、当日の午後六時ごろから主殿寮は大嘗宮の悠紀・主基二院にそれぞれ燈火(ともしび)、燎火(かがりび)を二つずつ設け、大嘗宮の南門外には夜通しで庭燎(にわび)を焚く。そのために悠紀・主基の二国は御殿油二斗(夜別五升)、燈蓋と盤を各八口、燈心布八尺(夜別二尺)、炭八石(日別二石)、続松三百廿炬(長各八尺 夜別八十炬)、薪一千二百斤(日別三百斤)を用意するとある。これだけの照明によって準備をととのえたあと、午後八時ごろに天皇が廻立殿に入ると、すべてが聖なる時間におしつつまれる。

この「天の羽衣」については以前記事に書いたことがある。『かつて天皇は「天の羽衣」を身にまとい祭祀王となった

フランス王朝のほか、プランタジネット朝もカペー家(アンジュー伯)の末裔、確かハプスブルク家はカエサルの末裔を自称、ホーエンツォレルン家はなんだったか。西欧の王家貴族家の血統とそのネットワークを表す「青い血」という言葉もあるくらいで、西欧の王朝の血統の重視は確かに厳然としてある。このあたりの観念のルーツはローマではなく、ゲルマン的だよな。あるいはイエ重視のローマと部族社会としてのゲルマン諸部族との融合の中で生まれたか。西欧の王権についてちゃんとまとまった本を探してみよう。「王権の修辞学」は以前読んだ。

ああ、そういえば日本と西欧以外で、琉球王国は尚氏の血統が国内の即位儀礼と中国王朝による冊封儀礼の二つを行って始めて即位する。十六世紀末に尚寧王が秀吉政権に下手に出ざるを得なかったのも、軍事力による威圧、対日貿易依存度の高まりといった理由の他、中国からの使節を迎えての冊封儀礼を行う費用捻出のためという理由もあった。特に浦添王家という傍流の出であったこともあってそのあたりは凄く深刻な問題だったようだ。

このあたり、ホカートの「王権」が西欧からアジア、ミクロネシア、アフリカまで世界中の王権かなり広く収集して比較していたのだけど、途中まで読んで図書館の返却期限が来てしまったのでまた借りよう。途中まで読んだだけだけどかなり面白い良い本だったので。

とりあえず、とりとめもなく書いた記事。

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