「戦国自衛隊」半村 良 著

映画はもう子供のころから何度となく観ていたけれど、原作小説は読んだことがなかったという作品の一つだったのだが、ついに読んだ。やはり日本SF黎明期を代表する一作で、1971年の発表直後からベストセラーとなり、戦国時代へ自衛隊がタイムスリップして大活躍というプロットは多くのフォロワーを生んで、歴史改変SF、架空戦記小説ブームの火付け役となった。軽い気持ちで読み始めたのだけど、実は適切な軍事考証、歴史考証がなされ、かつ、きちんとエンターテイメントの王道行くので凄く面白いのだ。

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魅力の一つには軍事考証へのこだわりがある。映画だとさくっと一小隊がタイムスリップするのだが、小説ではタイムスリップに至る米軍・自衛隊合同演習に向けた各方面軍の展開が描かれ、主人公たちの部隊がどのようにタイムスリップの現場へ終結していくかが描写されている。この辺、ミリタリーファンにはたまらないのではないだろうか。

最初の出だしのところなので、要約すると、「敵」が北海道および能登半島に侵攻してきたという想定で北部、東北、東部、中部、西部各方面軍が日本中で移動・展開を開始、東部方面隊第十二師団は国道八号を西へ移動し東部方面隊と西部方面隊の守備境界である境川を超える。第一師団・第十二師団の補給隊と陸幕第四部所属の需品科および武器科隊員によって境川河口に夜戦補給所が設営され、第十二師団普通科隊員十名が60式装甲車とともに警備にあたる。謎のタイムスリップが起きたのが、その境川河口の補給所の一角で、30名の自衛隊員と60式装甲車、大型ヘリコプターV107と哨戒艇、トラック二十五台、大量の武器弾薬燃料資材食糧等の輸送物資が丸ごと、パラレルワールドの戦国時代(信長も秀吉も家康もいない)にタイプスリップするというもの。

もう一つが、勿論、装甲車とヘリと重火器でガシガシ蹴散らしていくのだが、近代兵器で無双して戦国時代でヒャッハー・・・というよりは、道路を建設し、要所要所に補給網を築き、技術者を育成し、関東一帯に物流の大動脈を築いて、ヒトモノカネの移動を活発化させて国力を増大させ・・・と地味な兵站小説になっているところ。越後軍が次々とトラックで関東に進出していくとか、最高に面白い構図だった。

さらにトラックのおかげで物流が活発化し、商業が栄えて、近代兵器と自衛隊員に教えられた近代戦術理論に支えられて軍事的にも無敵化し、次々と有能な若手が台頭、国内(武田北条今川などをまとめて滅ぼしているので関東甲信越一帯)に平和がもたらされた結果、長尾景虎が戦の無い世の中を作ることの重要性に目覚めていくあたりの描写、近年の歴史ドラマによくある意味不明な平和主義戦国武将ブームとは比較にならない謎の説得力がある。

とにかくトラック大活躍小説で、近代兵器よりトラック(と精緻な地図)があれば戦国時代統一できる、と妙な確信に至る話だった。そりゃ中東でもトラックが大活躍する訳だ。といっても、重要なのはトラックを動かす燃料や近代兵器の武器弾薬で、これが尽きるまでの話ではあるのだが、最初期に上手く立ち上げてそれらが使えなくなっても、国が回る体制が徐々に作られていく、というある種の国造りシミュレーションゲーム的な内容になっていて、映画とは全く違った面白さがある。

タイムトラベルにお約束の歴史の改変に対する報いを主人公たちがどのように受けるのか、そこも大きな見所で、映画では全滅によって終結していたが、原作ではどうか?ここに半村良のアイデアが光っている。歴史を改変したことでの報いとして現代に戻されるのではないかという可能性に望みを託して主人公たちは長尾景虎に協力していくわけだが、その結末は、ああなるほどという感じだった。時は彼らに何をさせようというのか、である。

確かに戦国時代タイムスリップ戦記ものの先駆となっただけあって、黎明期らしい、エネルギッシュでアイデアに溢れた面白い作品になっている。映画しか観たことないという人はぜひ原作も読んでみるといいと思う。

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