アメリカ合衆国議会は私掠船免状を発行できる

アメリカ合衆国議会は私掠船免状を発行できる、という豆知識を最近得た。アメリカ合衆国憲法にも以下の通り定められている。

アメリカ合衆国憲法第一章第八条第十一項
戦争を宣言し、船舶捕獲免許状を授与し、陸上および海上における捕獲に関する規則を設ける権限。

私船による海上での暴力行為である海賊行為とは、国連海洋法条約第百一条によれば「私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客が私的目的のために行うすべての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為」と定義されている。歴史的に、国家の認可を受けて海賊行為を行う「私掠船」が歴史上多く見られてきた。十九世紀も半ばになると国家は私掠船に頼ることはなくむしろ彼らは安全な航行の障害となったから、1856年パリ宣言によって私掠行為の禁止が国際法として定められることになる。しかし、これに異を唱えたのが当時海軍力に劣るアメリカで、かねてから陸海軍に民兵を活用していたため、強硬に反対した。

『軍艦による商船の拿捕が認められている以上、パリ宣言によって私掠行為のみが禁止されても意味がないと主張した。即ち商船による物資輸送の安全こそが肝要であり、正規の軍艦によるものを含め、民間船へのすべての攻撃が禁止されるべきである。従ってパリ宣言に対するアメリカの対案は、私掠船を禁止するのではなく、戦時禁制品を除く私有財産(private property)を拿捕することを禁止し、軍艦、私掠船を問わず、その攻撃目標を公共財産(state property)に限定すべき』(稲本 守(2008)「欧州私掠船と海賊 - その歴史的考察」)

として、パリ宣言への署名を拒否し、現在に至るまで署名していない。ちなみに、第二次世界大戦中、米国は日本商船への攻撃による通商破壊作戦を盛んに行ったことはよく知られている。

このようなわけでアメリカ合衆国憲法には船舶捕獲免許状すなわち私掠船免状を発行する権限が議会に認められており、現在でもたびたび私掠船免状の発行について議題に上ることがある。例えば9.11後の対テロリスト対策で私掠船の活用が議論されたり、2009年にはソマリアの海賊対策で私掠船を使ってはどうかという提案がリバタリアンの代表格としてお馴染みロン・ポール議員からなされたりしている。(参考:『「民間船を武装させろ」、過激な海賊対策を米議員が提唱 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News』)

今のところ米国は強大な海軍力で私掠船の必要など全くないが、遠くない未来、海軍力が衰えた米国が私掠船免状を発行し、女王陛下の海賊ならぬ大統領閣下の海賊が七つの海を股に掛け暴れまわっているかもしれない。

関連記事
古代ローマから英国海軍まで欧州を中心に近代以前の海戦の歴史
「女海賊大全」より『アイルランドの海賊女王グレイス・オマリーの生涯』
「世界史をつくった海賊」竹田 いさみ 著
十六~十七世紀、海を渡った日本人~倭寇、奴隷、傭兵、朱印船、キリシタン
「海の武士団 水軍と海賊のあいだ」黒嶋 敏 著

スポンサーリンク
スポンサーリンク

フォローする

関連コンテンツ

スポンサーリンク
スポンサーリンク